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禽獣のクルパの感想はあえてまとまらないままにする話

松井あゆちゃん出演の『禽獣のクルパ』を、28日と30日に観劇してきた。

fragment edge No.3「禽獣のクルパ
2016/1/27〜31 上野ストアハウス
作・演出:淡乃晶(fragment edge)
出演:藍田麻利衣 / 柳瀬晴日 / 姫野つばさ / 榎あづさ / 松井あゆ / 入江冴来 / 梅原彩里 / 黒須みらい / 朝比奈里奈 / 山崎萌子 / 和地つかさ / かおりかりん / 小澤瑞季 / 種村幸

「救世主は1人で充分。」
私立森羅学園特進クラスの女子生徒は、ある山奥に二泊三日の勉強合宿に出かける。
ペンションに宿泊予定だったが、不審火により火災に遭ってしまう。全焼した建物を目の前にして遭難したことを自覚する生徒達。
助けを待つか、自力で下山するか。究極の選択を迫られた彼女達に獣の耳が生えるという奇妙な病気『アルマ』が蔓延し、事態は加速していく。
信じられるのは己のみ。彷徨い歩く、欺瞞と狡猾に満ちた深い森へ。

前から応援してた松井あゆちゃんの初舞台。想像してたよりずっと大きな役で、ツイッターの感想でも評価されてるみたいなのがうれしかったり。

タイトルとかビジュアルの第一印象では、けっこう高尚なお話かなと思ったんだけど、「ガールズ演劇の最果て」は伊達じゃなく、いろんな意味ですごかった。

僕の観劇体験としては、一度目の観劇からかなり気持ちが盛り上がった。キャストさん関係者さんたち、お客さんみんなツイッターですごくいろいろつぶやいてるし、それを見てたら妄想が膨らんで、終わってからもけっこう引きずった。これ書きはじめたのもずいぶん後になってから。

会場は上野ストアハウス、上野駅入谷口から少し歩いたところ。二度ともソワレだったんだけど、二度とも時間なくて夕食はコンビニのおにぎりで済ませた。入谷口方向って気軽に入れる店とかは少ないのね。客席はまあまあ角度あって、目の前に座高高いのが座ってない限り快適。A席は3列目以降自由席で、一度目は通路左、二度目は通路右の、だいたい真ん中くらいに座った。

シングルキャストで同じ公演を二度観たのってはじめて。今回も一度のつもりだったんだけど、パンフレットにあったネタバレ裏設定(「観劇終了後にお読みください」の注意書きつき)にまんまとやられた。でも後悔はしてないし、むしろ二度観てよかった。二度目の方がずっと感動したんで。

導入部のBGMや役者のちょっとした仕草にも、一度観たからこその理解と、裏設定を知っての理解が重なって、かなり意味を持ったものになって、そこでもう高まってた。その高まりが最後まで畳み掛けるようにあったのが最後に効いたのかも。ぽろっぽろ泣きましたもの。セリフと動きとのちょっとした違和感が解消されてたり、同じセリフでも表現の仕方が変わってたり、そういう細かなバージョンアップもよかった。

もともと音や照明の演出はよくて、例えば銃声が「バン!」じゃなく、ガラスが砕け散るような音なんだけど、それが途中出てくる「ヒビ割れたガラスのよう」ってセリフにも呼応して、少女の身体とともに心が砕け散る音として、こっちの心にぐさりと刺さる感じ。

衣装はみんな制服なんだけど、アレンジの部分についての解説をたまたま目にしちゃった。細かなキャラ設定が散りばめられてて、そういう作り手の意思を感じるとまた違った捉え方ができる。

だからって、僕がいつも好きでやってる「できるだけ調べずまっさらに観る」のは捨てがたく、この舞台も一回目はそうしてて、そこでの新鮮な捉え方があってこその二回目だとも。

キャラクターは全員が「犬飼ミコト」「猫宮ユリネ」みたいに動物の名前になってて、それぞれの動物のイメージとキャラクターの性格が呼応してる。獣の耳が生える奇病は当然その動物の耳。だから観劇した人は感想で、役名じゃなく「犬が」「猫が」ってなっちゃって、でもそのほうが通りがいいっていう。「狼塚(おいのづか)」より「狼」だよねそりゃ(笑)

最果てだけあって、どの役もかなり尖ってたから、感情移入するっていう感覚でもなかったんだけど、巷の声を聞く感じでは僕はわりと抵抗なく観てたクチらしい。「理解できない!」みたいな感覚はそれほどなかったので。出演者も役もすべて女性で、そのなかの百合要素としての(本質的には)切ない恋心があって、そこの切なさにやられた。LGBTにもあんまし抵抗ないのな。

猫が好き。ルックス、衣装、キャラクター。他を寄せ付けない孤高と犬への猫なで声のギャップ。元来猫派の僕にとっての理想の猫像に近かった。あんな猫になら殺されても本望、って言い過ぎかな。でもそういうふうに言いたくなるような猫だった。

犬は、あゆちゃん演じる「牛呂ケイ」と対照的な部分が多かったんで、無意識にそっちへ引っぱられる部分はあったかも。『幸福な王子』(またオスカー・ワイルドか!)のエピソードは犬役のそれと共通する部分が多くて、そこの定型さを感じてしまったのは、よい面と悪い面があった。あの話の悲しさを共有できるっていうよい面と、作り手の意図を読んでしまうっていう悪い面。

犬と牛との対比では、犬は悲観、牛は楽観。どちらも達観してるのだけど、犬のそれは諦観に近くて、彼女の生い立ちを重ねればどこか物悲しい。牛のそれはユーモラスさも混じって、そういうほっとする役が他になかったから、牛人気は制作側からすれば予想されたものだったんじゃないかな。

そんな役に助けられた部分はあったにせよ、あゆちゃんの演技はとても好感。初舞台ですし。おっかない狼を「トウカちゃ〜ん!」と、ひとり下の名前で親しげに呼ぶ牛の存在は、猫の最後の叫びの悲しさに一役買う部分。そこまでのひょうひょうとした演技はとてもよかったと思う。

そんなあゆちゃんの評判はいいみたい。応援してる子がそうやって広がってくのはうれしい。もちろん寂しさがないとは言わないけど。せっかく知ってもらえたんだから、またすぐに、お芝居に限らず何かの仕事でそういう機会があるといいなあと。事務所頼むよー。

他にも、兎と熊の俗っぽさ、虎の哀れさ、そして狐の報われなさなんか、他にもいろいろ凝縮してあったんだけど、この文章が物語の本質に触れないのは、いまだに頭のなかでまとまってないからっていうのと、まとめちゃうのがもったいなく感じてるから。そしてぜったい長くなるから割愛。2時間の演劇を語るのに何時間かかるんだって話。

そういう、それぞれのキャラの立ち方がかなり強い作品だった。DVDは予約こそしなかったけど、きっかけがあったら買っちゃいそうだなあ…。

終演後のチェキ会。チェキ券は終演前に販売終了してるシステムで、チケット持ってる人だけが参加なんだけど、他の人が追い出されるわけではなく、会場の前方ステージ付近でチェキ会、後方客席では面会が同時進行だった。

これ、かなりよかった。帰る人は帰るし、関係者面会も自然な流れだし。チェキはあゆちゃんとしか撮らなかったんだけど、他のキャストさんとも一言二言話せたし。キャストが「アイドル」だとこうはいかないのかもしれないけど。

気になったキャストさんは何人かいて、ツイッターで動向を見てみたら、クルパでのイメージとの乖離があんまり激しくてのけぞってる。あの雅な感じの人が「しいたけ大臣」だったり、姐さんがマイメロの声優だったり。マジかー。舞台って怖いトコだねー(笑)